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とある学校(今年で開校43周年)の話

 ―キーンコーンカーンコーン…
 全く緊張感の欠片もないチャイムの音を合図に教室中から緊張が消え去った。生徒達がテストの感想などを言い合ってるなか、教師はテスト用紙の確認を終え、号令をかけるように言ったが、誰も聞いていなかった。教師はあきらめて、道具をまとめて教室から出ていった。
「どうだった、志穂?」
 志穂は帰り支度の手を止め、話し掛けてきた友人の方を向いた。
「あ〜、それは聞かないでよ。」
 志穂は思い出したくもないというように、苦笑いをしながら手をふった。友人も自信がなかったらしく、同じように苦笑いした。

「じゃあね〜。また来週」
 友人と別れた志穂はそのまま校門の方へ向かわずに、学校の庭園の方へ歩いていた。庭園は普段は誰もいなくて、とても静かだった。ここ最近は、志穂のお気に入りの場所だった。普段は『青春の像』と呼ばれる像の近くにあるベンチに座って読書や考え事をしているが、今日は近くにある弓道場の方へ足を運んでみることにした。
 弓道場はテスト日であることもあって誰もいなかった。少し裏の方へ回ると、そこは高くない崖になっていた。志穂はそこに座り、周りを見渡した。民家や畑などがあり、遠くの方には煙がたちのぼっている。おそらく、畑で刈りとった雑草を燃やしているのだろう。志穂は視線を下にずらした。すると、竹林の近くに小さな鳥居とほこらが見えた。何故か、不思議な感じがした。
志穂はしばらく本を読んでいた。しかし、試験勉強で疲れていたのか少しうとうとしてしまっていた。すると突然ポケットに入っていた携帯電話の呼び出し音がなった。志穂は慌てて、ポケットから携帯電話をだそうとしたが、その時にひざの上にあった本が下に落ちそうになってしまった。とっさに手をのばし本をつかもうとして、体のバランスが崩れた。
「うわぁ、お、落ちるー!」
志穂は下へ転がるように落ちてしまった。

   *

「うーん。いたた……」
 志穂は眠気と衝撃からしばらく、気を失っていた。幸い、地面は草が生えていてやわらかかったので、軽く腰を打っただけだった。志穂は立ち上がり、崖を登ろうとして、やめた。流石にこの崖を登るのは無理だった。そこで近くの道から学校に戻ることにした。
 ――折角だから、ちょっとさっきの神社を見ていこうかな。
 そう思い、神社の方へ歩いていった。とは言っても、ものの三十秒ほどで着いてしまった。
 その神社は古かった。近づくと、現実世界から離れたような感じがする。竹林の近くにあるせいか、周りよりも少し暗い。志穂はその神社の鳥居をくぐった。すると突然、ほこらから光が漏れ出し、志穂を包んだ。志穂は突然のことで動揺し、とっさに目を手で覆った。しかし、周りは白一色に包まれ、志穂はそのまま気を失ってしまった。
 ――あれ、どうしたんだろう…
 志穂はほこらの前に立っていた。今の出来事が理解できず、夢かとも思った。しかし、カバンを置きっぱなしになってるのに気付き、慌てて鳥居をくぐり道にでた。するとそこにあるはずの家がない。志穂は記憶が間違っていたと言い聞かせ、進んだ。しかし、その先にも自分の知っている家がなく、見たことない家が建っていた。いずれも新しかった。正門の前は工事中のはずなのに、工事の機材がなく、壊されたはずの階段があった。志穂は自分の身に何が起こったのか理解できずに混乱するばかりだった。とにかく、さっきの場に戻ればどうにかなるはずと自分に言い聞かせ、階段を上がった。しかし、道端の木々が小さいように見えた。道路もひび割れていない。
 庭園に着き、辺りを見渡すと濁っているはずの池の水はきれいに澄んでいた。『青春の像』のわきを通り過ぎ、弓道場の裏手のさっきの場所に着いた。しかし、そこには何もなかった。志穂は辺りを探したが、結局カバンは見つからなかった。自分に起こったことは重大なことだと、確信した志穂は校舎の方へ行った。真ん中の建物の昇降口から入ると、見たことのない下駄箱が置いてあった。その先には、生徒会室があるはずなのだが、そこにあったのは購買部だった。志穂は少し前に先輩から聞いた話しを思い出した。
「生徒会室があるこの場所は、昔は購買部があったんだよ。だから、この棚とかはその名残りなんだよ。」
 志穂はひらめいてしまった。しかし、それは現実では起こりえない。まさか、自分が時空転移してしまうなんて。でも、そう考えれば、新しい家やこの場所にある購買部も納得がいく。時空転移で過去に戻り、過去の学校に自分がいると考えれば。現実から離れたような感じがした神社だったら、あるいは……
 そうなれば、ここは何年前で、自分の時代に戻ることを考えなければならない。この学校があるということは自分が四十一期だから、四十年前よりも前ということはまずない。そして、建物の状態から建ってから少なくも20年は経っている。故に一九八〇年頃だろう。
 ――それって私はまだ生まれてないじゃない。


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